アルゴリズム造形
Algorithmic Arts


COMA DESIGN STUDIO
Ken ISHIGAKI 石垣 健

アルゴリズム造形の基礎概念
Basic concept for Algorithmic Arts
形の構成機能をモデュールに分けてとらえる.


比例のモデュール

Proportional Module



プロポーションとは,全体対部分,部分対部分の比例関係を意味するが,複数の比例関係を調整的に生み出す手法としては,“モデュール”がある.ここでは,モデュールの作成プロセスにシンメトリーな調整を加え,リズム,バランス,プロポーションを統合的に調整できるモデュール変換アルゴリズムの解説と,その複合的機能が作る形が視覚にいかに影響するかを探る.


測定とモデュール

 造形における “モデュール” とは,プロポーションを統合し,ハーモニーの基盤を整えた,数理的モデルです. 古代ギリシャの「ヴィトゥルヴィウスの建築書」(図1)や日本の「匠明」(日本建築の寸法の割り出し方 “木割り” を記した書物),近年ではル・コルビジェの「モデュロール」(図2)などにもみられるように,建築デザインの分野ではさまざまな研究がなされ,公開されながらもどこか秘伝的香りの残る不思議な概念です.

 時代による度量衡の変遷や,美意識の移り変わりに合わせながら持続されているこの研究は,感覚的構成力に,数理的構成力と生産性を統合させるという,CGやCADの本来得意とする手法です.一種大量生産時代のモデュールは生産性重視となりがちでしたが,情報革命による受注システムは多種少量生産の生産性を高めました.従って,これからのモデューラー・コーディネーションは,CGによってビジュアルに,再帰的にモデュールが調整され,地域性やスタイルを客観的指標として表現し,固有の流通を切り開く大切な手法となるでしょう.また,変化する膨大なオブジェクトを扱うアニメーションのシーンでは,このような調整なくしては,構成の質的向上は困難です.自然そのものが常に不断の調整をしているように,三次元CGにおいてもシミュレーションのアルゴリズムなどと連携し,リアルタイムな調整を行えるのが理想です.



配列データと比例のモデュールの統合

 ここで取り上げる比例のモデュールは,視覚認識の対象としての「全体を幾つかの部分に分割したときのその相互の比例関係」を"一つの全体”として考えていきます."一つの全体”を記述する方法としては,一般化されたプログラム言語における配列変数*を用います.大きさと次元の設定が自由で,アルゴリズム化が可能なこの概念は,無次元的造形思考を促進すると思えるからです.ここではモデルとして先ず,面的広がりをもつ二次元の配列をとりあげます.これは,視覚的表現によって思考の効率を高め,伝達を容易にする為です.基本的に配列変数のもつそれぞれの値は無次元ですから,常に自在な次元の組み方を想定しイメージの広がりを確保していくことが可能です.


*配列変数について Arrey

配列変数は、プログラミングにおいては頻繁に使われる概念です.

配列変数は、プログラミングにおいては頻繁に使われる概念です.

下図は,0から15までの値を配列変数(4,4)に代入したものを図式的に示しています.代入する値が何進法であるかに注目すると,さらにそれを次元として加える事が可能です.下図は,4×4の配列に0から16の値を格納し,それぞれの値を2進法4桁で表示し,桁ごとにまとめて,DIM(4,4,4)の配列変数に格納し,視覚的に展開したものです.







これら各桁の値である0と1は,コンピュータプログラム中で下段の空白と円形の図形データに対応させることができます.したがって左の4つの配列を右端の図のように重ねる命令を記述すれば,16種の異なる同心円の形が描画できるというわけです,配列は,有限で循環するリズムとバランスを見出せるので,個別の性質をもたせた,多様な構成が可能です,



上図の配列で,下図のような比例関係の要素を対応させると,右下のような比例のある円の構成ができます.このとき,配列の位置と値の関係がどのようになっているかを考察することによって,律動と均衡を保ちながら,相互の比例関係を調整できる配列の変換が可能となります.









和が一定の比例のモデュールも作成が可能です,ここでは,何よりも視覚的に,比例の違いが形の差異として認識できるかどうか,その比例関係の異なるモデュールが,どのような形の差異をもたらすのかを感じ取る事が重要です.

下図は.左端の図列のように一つの正方形の中に4×4の異なる比例分割をし,やや量感の感じられる陰影を施して,順序を入れ替えながら右方へ展開したものです.この場合は,和を一定にする為,近似的に比例の計算を行っています.全体を見渡し,観察者のパターン認識と比例関係の相関がどのようにあるか実感してください.行方向の比例のモデュールが共通なのに対し,列方向の共通性とその差異がどのように感じられるか,様々な実例で知る事が必要なのです.







配列の次元は,空間的対応関係を想定することも,しないこともも自由であり,比例する要素としてあらゆる属性との対応が可能です.

下図は,上図右端の列の拡大です.同数の分割,共通の順序交換による配置,縦横の和の統一によって,比例のモデュールの差異が観察できます.
比例関係は順に,
 1.333のn乗.n=1〜3
 1.5  のn乗.n=1〜3
 2    のn乗.n=1〜3
 3    のn乗.n=1〜3

の状態で分散されています.私たちの視覚は,これらの違いがわかり,その全体の差異をある程度認識できているようです.それは比例関係によって生まれる差異ですが,図形の雰囲気として,感情的な記憶との結びつきを考慮に入れると,造形物としての性質の見極めは,更に綿密さを増すことでしょう.

 たとえば,いまこの4つの Unit に,各自の好みで名前を付けることにします.すると,この存在に対する認識は,各自の膨大な記憶と何らかの間接的照合を始め,名前となりうる言葉の検索と組み合わせを試みるでしょう.おそらく,その結果としての4つの名前の違いは,比例のモデュールの差異が起因していると言えます.と同時に,比例のモデュールの意味は,比例のモデュールにあるのではなく,見る側の視覚認識のモジュールなどに,大きく依存したものだと考えます.このような分離は,アルゴリズム造形の基本的姿勢なのです.









まとめ

1)配列変数の添字と配列要素の値は,添字の順序を基準として,差異のある値との関係を表し,それぞれの配列の次元を加味した時空の設定は,極めて複雑な様相となりうる.だが,この一見混沌とした構成の中に,複合したシンメトリーが成立するとき,視覚が無意識にバランスを感じ取ることは驚きでもある.

2)配列の次元と周期性を考慮し,形の要素,要因,属性等との対応関係をプログラムとして記述し実行する.このように,アルゴリズム造形は形の認識,形の意味,そして造形デザインや造形芸術へのプロセスのシミュレーションであり,創造性を育むプロセスデザインである.

3)差異による構成形式の研究とそのアルゴリズムによる展開は,輪郭には現れない形のあり方や,美の形式をさぐる,明快で再現性のある科学的アプローチでもある.CGを活用した迅速で着実な検証も,今やリアルタイムに近い.認知科学,感性工学の発展も伴い,音楽との比較も交え多角的に展望できる新たな共通概念が形成され,基礎教育と共に発展していく事を期待したい.


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Copyright 2004, Ken ISHIGAKI