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更新:08/09/30 >>09/12/18>> 12/02/06

■制作プロセス

蒼壁のアルスノート
粘土モデルを図面に起こすのはやっかいです.図面化によって空間の関係や的確な位置が定められます.問題は,それが見た目の造形性にどのように反映するかです.その調整は,図面化の後の実制作(performance)においても行われます.最後の一撫で,最後の一拭きが命を与えることもあるのです.



 制作プロセスにおける一貫した姿勢について,先ず記しておきましょう.
 私の初期の制作はパソコンなど無い時代です.当時,専門学校で私が担当していた「構成・構法」の授業において,デザイナーは制作のプロセスに注目するように勧めていました.制作実習においても烏口(からすぐち)やロットリングペンで図面を清書し,作品と共にプロセスのポスター展示を行うのが課題の提出条件でした.次に来る時代の予感があったというより,プロセスをしっかり把握して表現することが造形デザインへの基礎だったからです.時代は変わり,プロセスが実働するプログラムとして記述され,ポスカラの墨入れもカラートーンもインレタも不要になり,レンダリングまで手業を使わずに表示できるようになっていったのです.もはや家庭の電気釜の中ですらバイメタルに代わって炊飯の詳細なプロセスがプログラム言語で制御されているのですから,デザイン(考案)の仕事は必然的に情報革命の渦中です.力仕事や計算だけでなく,繊細な手業までが機器に代行され,苦楽の判別どころか人間の尊厳にまで及ぶような問題が次々と生じていきます.
 日常の生活をあらゆる側面から支えながら,なぜか生き甲斐を奪うコンピュータプログラム?一方私たちは,この恩恵にあずかりながらも,その人工言語の素晴らしさを理解しようとはせず,そのみごとなインフォメーション・デザイン(情報的考案)にも直接には目を向けようとしません.機械もプログラムも,構築するのは人の感性です.それがご飯粒を立たせるほどの炊きあがりをやってのけるのですから,どこかで機械に心が通じている人がいるのです.結果良ければ全て良し…といってもプロセスもその貢献者も不問というのはなんだか面白くありません.ご飯が上手に炊けるように,今ではデザイン構成のプロセスも詳細に記述できるのに…,学校ではプログラミングを教える時間がないのです.現在はどうなのでしょう?三点透視図が描ける能力があれば,プログラムの理解ができないわけがありません.

そもそも,芸術とは総合的な視点をもち,多様な表現形態をとり,そこには情報伝達のためのルールが暗黙に存在します.その多様さは驚くほどで,自然言語と共にほどほどの伝達が日常を支えているわけです.日常会話が哲学者のように厳密な人はまずまれですから….(笑)



  人工言語であるプログラム言語は,明確な定義によって確実に伝達・実行され,再現性を確かにしています.その面では,哲学的論述と似ているのかも知れません.ただし使われる命令語の数は少なく,概念は簡潔・明快ですが,価値に関する問答などにはとても及ばない最下位の概念ですので関数化によって上位概念を作らなければなりません.おおらかな使い方のできる自然言語とは雲泥の差です.まるで左図の脳内のスキャンが思考を写すには及ばないぐらいの隔たりがあるのでしょう….(笑)人間のもつ言葉の数は,辞書をながめていると想像がつくはずです.動詞の数だけでも数えきれないほどです.脳ってすごいですね.

ファサード
 実は,この伝達の厳密さの程度や抽象的レベルが作品の制作プロセスの記述においては重要なポイントです.
 先ずは音楽の場合を思い浮かべてみてください.多くの場合,作曲家がいて,演奏家のパーフォーマンスがあって,聴衆が存在します.一人で行うときは,あえて「自作自演」などというわけです.建築の場合ならば,設計者がいて,施工者がいて,施主や利用者がいます.音楽は楽譜を公に売ることができます.建築は,プレファブのように既存の図面の組合せで作ることもありますが,地形に合わせて建てるとなると,一応個別の設計です.音楽は,カラオケのように誰でも自由な解釈で歌うことが楽しめます.建築は構造さえ変えなければ,安全と意匠的調和の許す限り,自由に内装を変えられます.絵画や工芸,デザイン作品はどうでしょう?
 ある作品に対して歌は「上手に歌うね!」と褒められるのに,絵は「真似が上手いね」などと言われそうです.音楽はオーディオ装置のように複製技術の完成度が高いのですが,絵画や彫刻は,本物と見間違うような複製は敬遠されがちです.変ですネ!

巻き貝  巻き貝
左右の画像は同一のフォルム・スコアからの制作です.

shell score
ピアノの練習曲のようなフォルムスコア.

composition module

抽象度の高いバランスとリズムの関係

 このように芸術表現といえども,解放されて解釈の自由を豊かに残す柔軟な表現から,閉鎖的で厳密な位置や寸法を指定する表現まで様々です.それによって著作権の範囲も変化することになりますが,何よりも人々の楽しみ方が異なってくるわけです. 料理のレシピなども公開されることが多いですね.楽譜同様に,皆さん競って出来映えを楽しんでいます.「その酢豚は盗作だ!」なんて普通は言いませんよね.「マンマの味だね!」と褒めることはあっても….

このように見ていくと,オリジナリティーがある造形作品に著作権が生じるだけでなく,その作品の継承によって生じる解釈のオリジナリティーに敬意を表せるか否かが原作者に問われているようです.造形デザインも模倣や贋作と言わず,音楽のようにパーフォーマンス(演奏,実制作)という素敵で奥深いジャンルが育つような素敵な造形構成が期待され,やがて次に時代には,形典と形譜が確立されることになるでしょう.

アルスノート・ギャラリーは,その確立のための造形譜とその解釈による作品を提示していきます.

 isi

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